斜め前の席で、目が合った。ような気がした。
コンマ五秒後には、彼の顔はもう窓の外を向いてる。え、いま見てたよね?
一日に、三回。ぜんぶおなじパターン。
なのにグループのやりとりだと、彼、ふつうにスタンプ連打してくるの。私にだけ塩、って空気もない。それどころか、話しかけるとなんかそわそわしてる。
避けられてるのか、好かれてるのか、どっちなんだよ。この宙ぶらりん、地味にこたえるでしょ。
蟹座の男の人には、好き避けっていう、ちょっと厄介な仕様がついてる。しかも彼らの避け方、独特なの。読めるようになると、あの意味不明な態度がぜんぶ翻訳できるようになるよ。
蟹座の好き避けは、だるまさんがころんだに似てる
振り向くと止まる、目を離すと近づいてくる
覚えてる? だるまさんがころんだ。鬼が振り向いた瞬間、みんなピタッと固まるやつ。
蟹座の好き避け、あれとまるっきり同じ動き。
あなたがちゃんと目を向けると、彼はぴたりと止まる。関心のない顔をつくる。ところが、こっちが視線を外して別のことをしてると、いつのまにか距離が縮まってる。となりの席を選んでたり、話の輪にしれっと入ってたり。
なんでこんな面倒なことするかっていうと、蟹座って、本気の相手ほど警戒するの。どうでもいい人には、平気で近づける。好きになった瞬間、急に及び腰。近づきたい気持ちと、拒まれたら死ぬほど傷つくって恐怖が、体の中でせめぎ合ってる。だから前に出た足を、自分でひっこめる。
避けてるんじゃないの。近づいては、逃げてるの。
みんなには優しいのに、あなたにだけ、ぎこちない
ここ、いちばんの手がかり。
彼、後輩にも先輩にも愛想がいい。よく笑うし、気もきく。なのにあなたと二人になると、急に口数が減る。もじもじして、目線が泳いで、なぜか敬語になったりする。あるあるでしょ。
これ、嫌われてる証拠じゃないから。まるっきり逆。
考えてみて。どうでもいい相手の前で、人は緊張しない。すらすら喋れる。ぎこちなくなるのは、その人にどう見られるかが気になってしょうがないとき。
つまり、あなたにだけ挙動不審になるってことは、あなたにだけ本気ってこと。
蟹座の好き避けは、下手さの度合いが、そのまま好きの度合いだった。彼のポンコツっぷりを、ちょっと誇っていいレベル。
蟹座のやきもち、正直めちゃくちゃ子どもっぽい
他の男の名前を出すと、ぷいっと横を向く
やきもちの焼き方も、これまた不器用でね。
あなたが軽い気持ちで、〇〇くんって面白いよね、なんて言う。すると彼、急に無言。会話のテンポが、ことん、と落ちる。責めてこない。怒鳴らない。ただ、ぷいっと横を向いて、スマホをいじりだす。
小学生か。って、ちょっと笑っちゃうんだけど。
蟹座は、やきもちを言葉にするのが死ぬほど苦手。うらやましいとか、妬けるとか、口が裂けても言えない。かっこ悪いと思ってるし、そもそも自分の感情に名前をつけるのが得意じゃない。だから、態度でしか出せない。すねる。黙る。急にそっけなくなる。
めんどくさいでしょ。でも、そのめんどくささが、けっこう愛おしかったりするのよね。
焼いてるときほど、なぜか急にかまってくる
逆の出方もある。これがまた分かりにくい。
やきもちの炎がちらっと点いた直後、彼、急にマメになるの。それまで三日に一通だったのに、突然LINEが増える。ごはん食べた? とか、送っていこうか? とか。
優しさっぽく見えるけど、正体は不安。取られたくなくて、あなたのまわりをうろちょろしはじめる。犬がボールを離さないみたいに、そばを離れなくなる。
そわそわして、やたら世話を焼いて、でも本音は一切言わない。ぜんぶ間接的。蟹座のやきもちって、直球が一球もなくて、変化球しか投げてこないの。
好き避けか、ただ興味がないだけか。見分ける一点
これは、避けてるけど好き、なやつ
翻訳の決め手を置いておくね。
避けられてるとき、彼、そわそわしてる? 目が泳いでる? だとしたら脈あり寄り。好き避けの避けは、いつも動揺とセットなの。落ち着いて避けてこない。むしろ挙動が忙しい。
それから、あなたがぽろっと言ったことを、彼が覚えてる。前に好きって言ってたお菓子を、さらっと持ってくる。この記憶力、蟹座なりの愛情のダダ漏れ。興味のない相手の発言、彼らはあっさり忘れるから。
あと、目が合わないのに視線を感じる。ふと振り向くと、さっきまで見てた気配がする。だるまさんがころんだ、まさにそれ。
そして、名前を出したときにちゃんとすねる。反応があるってことは、あなたが彼の心に住んでる証拠だよ。
こっちは、残念だけど、たぶん望み薄
正直な話もしておく。ぜんぶ好き避けに読むのは、それはそれで危ういから。
避け方が、しんと落ち着いてる。動揺の気配がゼロ。あなたの話をまるで覚えてない。よその男の名前を出しても、へえ、で終わる。すねもしない。会話も広げてこない。
ここまで揃うと、それは好き避けじゃなくて、ただの省エネモード。彼の中で、あなたはまだ近づけたい相手になってない。
見分けの軸は、避けの温度。焦って避けるのか、無関心で避けるのか。前者はチャンス。後者は、まぁ、いまはそっとしておくのが吉。判断材料を彼の顔色だけに探しにいくと迷子になるから、態度のあわて具合を見て。
私が三か月、まるごと勘違いしてた話
冷たいと思ってた。ぜんぶ、逆だった
昔、職場に蟹座の彼がいてね。
私にだけ、やたらそっけないの。他の人とは笑って喋ってるのに、私が話しかけると、うん、とか、そう、とか。目も合わせない。(あー、この人、私のこと苦手なんだな)って、勝手に結論づけてた。
正直、ちょっと傷ついてた。私なんかした?って、心当たりを探して、見つからなくて、もやもやして。
だから距離を置いた。話しかけるのをやめて、事務的に接するようにした。避けられてるなら、こっちも引くしかないでしょ、って。
いま思えば、あれが最悪の一手だったんだけど。
熱を出した日に、正体がバレた
転機は、突然きた。
私が風邪をこじらせて、会社を休んだ日。夕方、スマホがぶるっと震えた。彼からだった。
(え、なんで?)ってなったよ。あんなに素っ気ない人が。
無理しないでください、の一言と、そのあとに、机に置いておいたのど飴、賞味期限だいじょうぶでした、って。
のど飴?
記憶をたどって、ぞわっとした。二週間くらい前、私が咳をしてたとき、誰かがそっと机にのど飴を置いてくれてたの。差出人不明のまま、なんとなく食べてた、あれ。
彼だった。
その瞬間、点と点がぜんぶ線になった。私が忘れてた小さい会話を、彼はいくつも覚えてた。目を合わせなかったのも、そっけなかったのも、避けじゃなくて、直視できなかっただけ。
(なんだよ……最初から、そっちかよ)
うれしいのと、三か月ムダにした悔しさと、自分の勘違いの恥ずかしさが、いっぺんに押し寄せてきて。スマホ握ったまま、ひとりで変な声出た。ほんと、好き避けを見抜けないと、こういう遠回りをするのよ。はぁ、あの三か月、返してほしい(笑)。
避ける彼を、追わずに溶かすには
追いかけっこを、こっちから降りてみる
好き避けの相手を、追ってはいけない。これだけは覚えて帰って。
だるまさんがころんだを思い出して。鬼がぐいぐい迫ったら、みんな余計にガチガチに固まるでしょ。蟹座も同じ。距離を詰めにいくほど、彼は殻の奥へ引っ込む。傷つく前に逃げる、が初期設定だから。
だから、こっちが鬼をおりる。じっと見つめるのをやめて、視線をゆるめる。すると不思議なことに、固まってた彼のほうから、そろそろと近づいてくるの。
追わないっていうのは、冷たくするのとは違うよ。話しかけられたら、ふつうに笑って返す。ただ、こっちから追撃はしない。この、ゆるい間合いが、蟹座にはいちばん効く。安全だ、この人はぐいぐい来ない、って感じた瞬間、彼の警戒が、ふっとほどける。
やきもちで試すと、貝になる
逆に、いちばんやっちゃダメなのが、やきもちを焼かせて試すこと。
好き避け中の蟹座に嫉妬をぶつけても、燃えあがるどころか、しゅんと引っ込む。他の男の影をちらつかせた瞬間、彼はこう思うの。(自分なんかより、あっちのほうがいいんだ)って。勝手にあきらめて、そのまま距離を取りにいく。
試せば試すほど、貝の口はかたく閉じていく。開けるのに、ものすごく時間がかかるやつ。
彼に必要なのは、揺さぶりじゃなくて、安心だけ。避けても嫌いにならない、逃げても追い詰めない。その空気をそばに置いておくと、蟹座はいつのまにか、自分から殻を出てくる生き物だから。
避けるって、いちばん遠回りな好きだった
避けられると、拒まれてる気がして、しんどいよね。目も合わせてもらえないと、なおさら。
でも、蟹座の好き避けの中身は、まるっきり反対なの。近づきたくて、こわくて、その二つがぶつかった結果が、あのぎこちなさ。彼の下手さは、興味の薄さじゃなくて、本気の重さから来てる。
どうでもいい相手になら、蟹座はもっとスマートに振る舞える。もじもじするのは、あなたが特別だから。
目をそらすあの一瞬に、いちばん言えない言葉が、ぎゅっと詰まってる。翻訳できたなら、もう半分は、あなたに気持ちが向いてるってことだよ。
