帰り道の彼が、別人みたいに黙るようになった。
飲み会では場を仕切って、全員の飲み物を確認して、いちばんよく笑ってる人。それが車のドアを閉めた瞬間、無言になる。ラジオもつけない。信号待ちで横顔を見たら、口角が完全に下がっていた。
えっ、怒ってる。私なにかした。
そう聞いたら、彼はぼんやりした顔で、なにが、と返してきた。ぞわっとした。あの温度差、初めて見たときは本当に怖かったんだよね。
獅子座男性の二面性が怖いと言われる場面には、型がある
怖いと感じた瞬間を思い出すと、だいたい似た形をしている。人がいる場といない場の落差、褒めるときと黙るときの落差、優しさと冷たさの落差。全部、切り替えの速さに驚いている。
外での顔が明るすぎるから、落差が際立つ
そもそも彼らは、人前でのテンションが高い。太陽を守護星に持つと言われる星座だし、実際に集団の中心に置かれると水を得たみたいに動きだす。
問題は、その明るさが基準値として記憶されること。二人になったときの平常運転が、比較で暗く見えてしまう。
獅子座男性の裏の顔は、暗い側じゃなくて、明るい側のほう。
これに気づいたとき、私はしばらく口を開けたままだった。あの陽気さは素の状態ではなくて、彼が全力で立ち上げているもの。だから疲れる。だから車の中で落ちる。
笑って許したあとに、態度だけが冷える
その場では気にしてないよと言う。次の日から連絡が減る。この流れがいちばん怖いという声を何度も聞いた。
彼らは怒りを口に出すのが下手というより、怒っている自分の姿を見られたくない。感情的になった自分が格好悪いと思っている。だから言葉を飲んで、態度に染み出す。本人は隠せている気でいる。全然隠せてないんだけど。
裏の顔の正体は、驚くほど地味だった
何か企んでいるとか、別の女性がいるとか、そういう話に飛びつきたくなる。私も一度その道を全力で走って、盛大に外した。
電池が切れているだけの時間
獅子座の男性を長く見ていて思うのは、社交が趣味というより仕事に近いということ。全員の様子を見て、話を振って、盛り上げて、支払いを済ませる。あれを2時間やったら、誰だって抜け殻になる。
彼が黙るのは、あなたに対して機嫌を悪くしたからではなく、電源を落として休んでいるから。恋人の前でだけ電源を落とせるなら、それはむしろ関係が進んでいる証拠になる。
(この理屈に辿り着くまで、私は3ヶ月くらい彼を疑い続けていた。ごめんね、本当に。)
自分でも説明できない不機嫌を抱えている
心理学の講座で扱った内容の中に、感情に名前をつける力の話があった。自分の状態を言葉にできる人ほど、その感情に振り回されにくい。逆に言語化が追いつかないと、もやもやしたまま態度に出る。
獅子座の男性は、感情の温度は高いのに、その中身を分解するのが得意ではない。むしゃくしゃする、なんか嫌だ、そこで止まる。理由を聞かれても答えられないから、余計に不機嫌になっていく。厄介なループ。
プライドが折れた日は、別人に見える
仕事で恥をかいた日の彼、すごかった。声が小さい、目を合わせない、返事が単語。あんなに堂々としてる人が、こんなに小さくなるんだと驚いた。
彼らの落差が激しく見えるのは、上げ幅が大きいから。高いところにいる時間が長いぶん、落ちたときの距離も長くなる。性格が二重なのではなく、振れ幅が広いだけ、というのが今の私の理解。
怖いと感じたときに、やってはいけない反応
ここ、経験の蓄積がある。ほぼ全部やらかしてきた。
沈黙の理由を、その場で問い詰める
ねえ、なんで黙ってるの。言ってくれなきゃ分からない。
気持ちは痛いほど分かる。でもこれ、彼にとっては説明能力を試されている場面になってしまう。答えられない自分がまた恥ずかしくなって、さらに黙る。私はこれで何度も気まずい沈黙を延長させた。
怖いと本人に伝えてしまう
あなたのそういうところ怖い。この一言が、いちばん深いところに刺さる。
獅子座の男性は、誰かを守る役を自分に課している。守るはずの相手から恐怖の対象として名指しされると、自己像が根本から崩れる。あの日の彼の顔、忘れられない。しまったと思ったけど、口から出た言葉は戻らない。
伝えたいなら、切り口を変える。急に静かになると心配になっちゃう。この言い方なら、彼は責められたと感じないで済む。
裏表があると人に話す
共通の友人に相談したくなる。でも、この話は必ず本人に届く。しかも尾ひれつきで。
自分の評判が知らない場所で作られていると知ったとき、獅子座の男性は怒るというより深く傷つく。信用を失うのは一瞬。取り戻すのは何ヶ月もかかる。これ、身をもって学んだ。
切り替えの落差と、うまく付き合う方法
沈黙を放っておく練習
彼が黙ったら、こちらも普通にしている。音楽をかける、外を見る、スマホをいじる。無理に話しかけない。
15分から30分くらいで、彼のほうから話しはじめる。あれ本当に不思議で、何かが充電されて戻ってくるみたいな感じ。私がこれをできるようになってから、車の中の空気が別物になった。
今まで我慢できなかった沈黙が、ただの休憩時間に変わった瞬間、ふっと肩の力が抜けたのを覚えている。
帰り道に、彼の手柄を一つ渡す
今日の場、あなたが仕切ってたよね。あの子ずっと楽しそうだった。
これだけでいい。人前で頑張ったことを、誰かが見ていたと知らせる。獅子座の男性が本当にほしいのは、その場の拍手より、終わったあとの一言のほうだったりする。
無言だった彼が、ふっと笑って喋りだしたことが何度もあった。単純だなと思うけど、そういうところが可愛いのよ。
不機嫌に名前をつけてあげる
言語化が苦手なら、こちらが選択肢を渡す。疲れた、腹減った、あの人の一言が引っかかった。三つくらい並べると、彼はどれかを選ぶ。
腹減った、が正解だった日が本当にあって、コンビニでおにぎり買ったら普通に喋りだした。あのときは笑った。深刻に考えていた自分がバカみたいで。
それでも危ないと感じるときの線引き
ここは軽く扱いたくない。二面性という言葉で片付けてはいけない場合がある。
疲れて黙るのと、支配するために黙るのは別物
充電中の沈黙は、時間が経てば元に戻る。あなたを従わせるための沈黙は、あなたが謝るまで続く。
見分ける基準はそこ。終わり方が自然か、あなたの屈服が条件になっているか。
交友関係を制限してくる、外では優しくて家では別人、あなたの記憶を否定してくる。こういうものが積み重なっているなら、星座は関係ない。人格の問題として扱っていい。信頼できる人に話して、必要なら専門の窓口へ。ここだけは、恋愛コラムの範囲を超える。
怖さの正体が、自分の側にあることもある
私の場合、彼の沈黙が怖かったのは、過去に無視され続けた経験があったから。彼は休んでいただけなのに、私は昔の記憶を重ねていた。
これに気づいた日、なんだか涙が出そうになった。彼に謝りたくなったし、あの頃の自分にも謝りたくなった。
相手の二面性を疑う前に、自分がどの傷に触れているのかを見にいく。遠回りに見えて、いちばん確実な道だったと思っている。
彼は今も、飲み会では大声で笑って、帰りの車では黙る。
私はもう怖くない。信号待ちで横顔を見て、お疲れさま、と一言だけ言う。彼はうん、とだけ返す。それで足りている。
