私は一度だけ、意図的にやったことがある。
飲み会で、隣の席の男性とやたら楽しそうに喋ってみせた。斜め前にいた獅子座の彼が見ているのを確認しながら。声のトーンまで作った。われながら小賢しかった。
彼は、なんの反応も示さなかった。翌週も普通に接してきた。むしろ機嫌が良かった。
効かなかったんだな、と思った。半年後に判明したのは、その真逆だった。彼は全部見ていて、あの日から、自分は選ばれない側なんだと勝手に判断していたらしい。
ちりっと胸が痛んだのを覚えてる。狙いどおり嫉妬させて、狙いと正反対の結果を引き当てたわけで。
獅子座は嫉妬しない、という大きな誤解
する。ただし顔に出さない
彼らの独占欲はけっこう強い。自分のものだと認識した相手が他の誰かと親しくしているのを見て、平気でいられる人はほぼいない。
表に出ないのは、嫉妬している姿がかっこ悪いから。獅子座の男性にとって、余裕のない自分を人前にさらすのは、ほとんど敗北に近い。だから笑う。むしろ普段より上機嫌になったりする。
内心はふつふつしてる。そこに気づけないと、この星座への揺さぶりは全部空振りに見える。
妬いてるんじゃなく、順位を確認している
中身を分解すると、他の男性への敵意はあまり入っていない。入っているのは、自分の位置が下がったかどうかの計算。
一番だと思っていた席が、いつのまにか二番になってないか。そこだけを気にしてる。
だから、彼が反応するのは相手の男性のスペックじゃない。こちらの中での順位が動いた気配のほう。ここを外すと、どれだけ派手に演出しても届かない。
逆効果になる、よくある三つ
他の男性の影をちらつかせる
一番やられがちで、一番効かない。
獅子座は競争に慣れてる。だから他人の存在を見せられると、勝ちにいく前に採点を始めてしまう。この相手は自分が本気を出すに値するのか。値しないと判断したら、そこで静かに撤退する。プライドを賭けた勝負に、彼らは軽々しく参加しない。
しかも、負けた姿を見せるくらいなら先に降りる、という選択を平然とやる。私が半年前にやらかしたのはこれ。
返信をわざと遅らせる
これも危ない。獅子座は待たされることに対して、思っている以上に沈む。
一日、二日と返さないでいると、彼の中では嫌われた説が組み上がる。そして自尊心が傷つく前に、自分から気持ちを畳んでしまう。速い。びっくりするくらい速い。
連絡の頻度を落とすなら、返信そのものは普通に返しておく。減らすのは、こちらから始める回数だけ。
SNSでの匂わせ
効かないというより、彼が引く。
獅子座の男性は、自分が主役でいられない舞台に興味を示さない。ネット上で誰かを焦らせようとしている姿は、彼から見ると格好悪く映る。
がっかりされるのが一番痛いんだよね。嫉妬させたいのに、評価だけが下がっていく。
彼を動かすのは嫉妬じゃなく、失う感覚
誰かに取られる、より、自分の席が消える
獅子座が焦るのは、ライバルが現れたときじゃない。自分に割り当てられていた場所が縮んだときのほう。
毎週土曜に会えていたのが、隔週になる。すぐ返ってきた返事に、半日かかるようになる。飲み会で必ず隣にいた人が、別のテーブルで笑ってる。
男性の影は必要ない。空白があれば足りる。
心理学の通信講座で希少性の話を扱ったとき、私は自分の失敗を思い出してうんざりした。人は、手に入りにくくなったものの価値を高く見積もる。誰かに取られる恐怖より、単純に減ったという事実のほうが強く効くことがある。
効く仕掛けと、その加減
席を減らす。ただし撤去しない
三回誘われたら、一回だけ断る。理由は言わない。ごめん、その日は別の予定があって、で終わらせる。詳しく説明すると効果が消える。
断ったあとの態度が肝心で、そこは普段どおり明るくしておく。冷たくすると別の意味になってしまうから。
獅子座はここで、あれ、と思う。行けなかったんじゃなく、他を選ばれた。この差が彼を動かす。
称賛を、一時的に止める
これがたぶん一番効く。彼らは反応を燃料にしてる人たちだから。
いつも笑ってた冗談に、今日はふっと微笑むだけ。すごいですね、を一回飛ばす。話に食いつくのを、二回に一回にする。
数日で、彼のほうから話題を増やしてくる。声も大きくなる。目に見えて頑張りだす。
ただし、無反応にはしないこと。ゼロにすると拒絶として届いて、彼は舞台から降りる。減らすのと消すのは全然違う。
彼が知らない話題を持っておく
一番健全で、一番強い手。
新しく始めたこと、行ってきた場所、仕事で任された案件。彼の関与していない領域で、こちらが楽しそうにしている。
獅子座は、自分の世界に閉じている人に興味を持たない。逆に、自分の照明が届かない場所を持っている相手には、はっきり惹かれる。妬くというより、混ざりたくなるらしい。
知人の獅子座に聞いたら、俺が知らない話をしてる時が一番くやしい、と即答された。素直だな、と笑ってしまった。
効いているときに出るサイン
質問が増えて、そのあと自慢が来る
まず、こちらの予定を聞いてくる。週末なにしてたの、あの人とはどういう関係、みたいな。さらっと聞いてくるけど、聞く回数が明らかに増える。
そのあとが獅子座らしいところで、急に自分の話をしはじめる。仕事の成果、鍛えてる話、褒められた話。
価値を証明しにきてるんだよね。かわいい。
誘いの粒度が細かくなる
今度ごはん、みたいなふわっとした誘いから、来週の水曜どう、に変わる。店の名前まで出てくる。
獅子座は決めたら早いから、この変化はけっこう分かりやすい。カチッと切り替わる感じ。
触れ方と距離が変わる
座る位置が近くなる。他の男性と話しているとき、視線が飛んでくる回数が増える。会話に割り込んでくる。
これが出たら、もう仕掛ける必要はない。むしろ、ここでやめるのが上手い人。
境界線を越えたときの、壊れ方
プライドを人前で削ると、一発で終わる
みんなの前で他の男性を持ち上げる。彼の話をさえぎって別の人に振る。冗談として彼をいじる。
その場では笑ってくれる。だから成功したと錯覚する。でも翌日から距離が一定になる。獅子座は、観客の前で刺された記憶を長く持つ。
三週間を超えて続けない
効かせるつもりの空白が長引くと、彼は自分の中で結論を出してしまう。
だいたい三週間が限度。それを超えたら、彼はもう別の場所を照らしはじめる。しーん、と静かになったら手遅れ。
やりすぎた後の戻し方
もし冷えてしまったら、説明はしないほうがいい。あれは試したんです、なんて言った日には最悪の結果になる。
やるのは、彼の得意分野で一度だけ頼ること。そして結果を報告する。あのアドバイスで助かりました、まで届ければ、彼の中の有能感が先に戻る。恋愛感情は、そのあとから追いついてくる。
私の失敗と、仕掛けなかった人の話
隣の席で笑ってみせた夜の答え合わせ
半年後、共通の知人経由でその話を聞いたとき、私は自分の浅さにげんなりした。
彼は嫉妬したのに、そのまま身を引いた。獅子座の嫉妬は、こちらに向かってこない。内側で処理して、静かに順位を書き換えて終わる。
届けたい相手に届かず、こちらの評価だけが下がる。そういう仕掛けだった。
何も仕掛けなかった後輩のほう
同じ時期、別の後輩は獅子座の男性と付き合いはじめた。彼女は駆け引きを一切していない。
やっていたのは、誘われた三回に一回断ることと、ボルダリングに通いはじめたこと。それだけ。断る理由は本当に予定があっただけで、狙いなんてなかったらしい。
彼のほうが焦った。何やってるの、俺も行っていい、と食い下がったそうだ。結局その人、二回で腕が上がらなくなって離脱したらしいけど。
自分の時間を持っている人は、仕掛けなくても勝手に希少になる。ずるいくらい効率がいい。
