友人から深夜二時に電話がかかってきた。開口一番が、あの人私のこと嫌いなのかな、だった。
相手は蟹座の男性。同じ部署で、春までは普通に雑談していたのに、ここ数週間まったく目が合わないらしい。
話を最後まで聞いて、私は思わず吹き出した。だってその彼、彼女が熱で休んだ翌日、机にのど飴を置いていったって話も一緒に出てきたんだもん。
避けるくせに、気にしてる。矛盾してる。そこが蟹座男性のややこしさで、たぶん一番かわいいところ。
避けられている側からすると、そんな可愛げなんて一ミリも感じないよね。毎日ズキッとするし、夜中に過去の会話を巻き戻して原因を探すし、正直しんどい。
蟹座男性が距離を取るとき、頭の中で起きていること
好意より先に、防御が立ち上がる
蟹座は水の星座で、感受性の針が細かい。相手の機嫌の変化を、こちらが思っている三倍くらい拾っている。だから好きな人ができると、嬉しさより先に、拒まれたときの痛みを想像しはじめる。
心理学の通信講座で愛着の話を学んだとき、私はここが腑に落ちた。近づきたい欲求と傷つきたくない回避が同時に走ると、行動としては後退が勝ちやすい。人って、得る喜びより失う恐怖のほうに強く反応する生き物だから。
蟹座男性の好き避けは、興味がないから離れるんじゃない。近づきすぎた自分に驚いて一歩下がる感じ。カニが岩陰にサッと引っ込む、あれ。ハサミだけ出したまま、こっちを見てる。
身内に入れた相手ほど、態度がぎこちなくなる
蟹座は、自分の内側と外側の線をはっきり持つ。外の人にはむしろ愛想がいい。丁寧だし、よく笑う。ところが内側に入れた相手には、素の不器用さがそのまま出てしまう。
だから、他の女性とは自然に喋るのに、自分にだけ表情が固い、というあの現象が起きるわけ。あるあるだと思う。避けられている側は、私だけ嫌われてると読む。彼のほうは、緊張して顔の筋肉が動かないだけ。
え、じゃあ全部好き避けってこと?
そうでもない。嫌い避けは嫌い避けで、ちゃんと別の顔をしてる。
好き避けと嫌い避けを分ける、7つの分かれ道
一つめ、目が合わないのか、合った直後に外れるのか
好き避けの視線は、当たってから逃げる。廊下の端でこちらを認識して、一瞬止まって、それから慌てて手元のスマホを見る。あの停止が証拠。
嫌い避けは、そもそも視界に入れない。認識する前に進路が変わっている。目が合う機会そのものが発生しない。
見るのは、逸らすまでの時間差だけでいい。ゼロコンマ何秒の遅れがあったなら、彼は確実にこちらを見ていた。
二つめ、返信が遅いのに、やたら長い
既読から丸一日。ようやく来たと思ったら三行以上あって、こちらの質問に律儀に全部答えてる。しかも最後に絵文字をひとつだけ、置きにきたみたいに付けてくる。
これは好き避け側の典型。文面を何度も書き直すから遅くなる。友人の彼氏は、当時の下書きを後から見せてくれたことがあって、同じ内容を七回書き直していた。七回だよ。
嫌い避けのメッセージは、速いか無いかのどちらか。了解です、で終わる。遅さと熱量は、蟹座の場合わりと比例する。
三つめ、集団の中での立ち位置
飲み会で話しかけてこないくせに、なぜか斜め前あたりに座っている。会話には入ってこない。でもこちらが別の人と喋っていると、微妙に相槌のタイミングが合う。聞いてるんだよね、ずっと。
蟹座男性は、好きな相手の半径二メートルから出られなくなる。近づけないのに、離れる決断もできない。
嫌い避けだと、席の移動が起きる。人が入れ替わるタイミングで、自然に距離が広がっていく。二次会で位置が遠くなったなら、そこは素直に受け取っていい。
四つめ、記憶の解像度
去年こぼした一言を覚えている。苦手な食べ物、飼ってる猫の名前、風邪をひきやすい季節。避けている本人が、なぜかこちらの生活史にやたら詳しい。
好意のある蟹座男性は、記憶容量がバグる。関心のある対象の情報を、意識しないまま貯め込んでしまうから。
反対に、何度話しても名前の漢字を間違える、前に話した内容がまるごと消えている。これは温度が低い。冷たいというより、彼の中の優先順位の棚の、下のほうに置かれてる。
五つめ、雑さの質を比べる
他の人と比較するとき、優しさの量で測ると読み違える。見るべきは雑さの種類。
好き避けの雑は、緊張から来るぶっきらぼう。口調が短くなる。目を見ない。なのに荷物は持つし、傘は貸すし、重い箱は勝手に運んでいく。
嫌い避けの雑は、関心が薄いところから来る。丁寧なのに冷たい。敬語がずっと崩れない。行動が伴わない。
態度が悪いのに世話を焼くなら好き避け、態度はいいのに何もしないなら嫌い避け。ここ、けっこう当たる。
六つめ、避けたあとにフォローが来るか
そっけない対応をしたあと、蟹座男性はだいたい後悔している。夜になって、業務連絡にかこつけたどうでもいい確認が飛んでくる。あるいは翌朝の挨拶だけ、妙にはっきりしてる。
あれ、謝ってるつもりなんだと思う。言葉にできないぶん、次の接触で埋めにくる。
嫌い避けは、フォローが来ない。素っ気なさが、そのまま翌日も翌週も続く。放置って、けっこう正直なサインなんだよね。
七つめ、距離が揺れているか、一定か
一週間まるごと記録してみるとわかりやすい。好き避けには波がある。月曜は近くて、水曜は避けられて、金曜にまた向こうから話しかけてくる。進みたい気持ちと逃げたい気持ちが、彼の中でシーソーしてる証拠。
嫌い避けは、フラットに遠い。揺れない。ずっと同じ温度、同じ距離。
線にしたらギザギザか、まっすぐか。それだけの違い。ギザギザなら、彼はまだ迷ってる。
嫌い避けのときに出る、静かなサイン
感情の起伏が消える
嫌いという感情って、実はエネルギーを使う。蟹座男性は、そこにコストをかけない。苦手な相手には、怒りも呆れも向けなくなる。ただ、無風になる。
無視されるより、無風のほうが刺さる
冗談を言っても反応が同じ。褒めても、ちょっと意地悪を言っても、返ってくる温度が変わらない。この平坦さは、かなりハッキリした答え。
蟹座の男性は、嫌いな相手を避ける労力すら使わない。避けるという行為自体、意識している人にしか発生しないから。
未来の話が戻ってこない
今度そのお店行ってみたいね、と投げたときの返しを見るとわかる。
好き避け中の彼は、そうですね、で止める。素っ気ない。なのに数日後、その店の定休日をなぜか知ってる。調べてるんだよ、こっそり。
嫌い避けだと、話題そのものが流れていく。いいですね、で終わり。続きが永遠に来ない。
見分けがついた、そのあとの距離の取り方
追いかけるより、安全な場所になるほうが早い
好き避けだと判定できたなら、やることは驚くほど少ない。近づかない。でも消えない。
挨拶は毎回する。目が合ったら笑う。それ以上は詰めない。この人の前では緊張しなくていい、という学習が彼の中で起きるまで、こちらは静かに待つ。
蟹座男性は、安心を確認してからじゃないと前に進めない。ここを飛ばすと、何度でも岩陰に戻っていく。
私の感覚だと、態度が変わりはじめるのは、こちらが期待するのをやめた頃。皮肉なんだけど、ほんとにそう。
殻が開くまでの時間の目安
早い人で一か月、長い人だと半年以上。職場だと失敗したときの逃げ場がないぶん、さらに慎重になる。
待てないなら降りていい。冷たい話じゃなくて、こちらの人生の時間の話だから。
三か月経ってもギザギザが残っているなら、まだ進行中。まっすぐに均されたら、そこが終わり。
これをやると、蟹座男性の殻はもっと固くなる
気持ちを問い詰める
私のこと避けてるよね、どうして、と面と向かって聞く。気持ちはわかる。痛いほどわかる。でも、これが一番きつい一手。
蟹座男性は感情を言語化するのに時間がかかる。まとまっていない状態で答えを迫られると、安全側の返事を選んでしまう。つまり、そんなことないですよ、で蓋をする。
一度その蓋が閉まると、開けるのに倍の時間がかかる。パタン、って音がしそうな感じ。
嫉妬を狙った駆け引きは裏目に出る
他の男性の影をちらつかせて反応を見る作戦。蟹座には効かない。というか、効きすぎて壊れる。
彼らは勝ちにいかない。競争が始まった瞬間、静かに身を引く。自分より相手が幸せそうな選択肢を、勝手に選んであげてしまうから。優しさが、いちばん残酷に働く場面。
試すより、こちらの安全性を見せるほうが速い。遠回りに見えて、たぶん最短ルート。
私が読み違えて、危うく撤退しかけた話
四か月避けられ続けた友人の、その後
冒頭の深夜二時の友人。あのあと彼女は告白もせず、詰めもせず、毎朝の挨拶だけ続けた。返ってくるのはほぼ会釈。じわっと心が削れる日々だったと思う。
四か月目、彼のほうから、今度ごはん行きませんか、と来た。文面はガチガチの敬語。誘っておいて日程の提案はゼロ。(そこまで来たなら日にちも決めてこいよ)と私は思ったけど、彼女は笑って自分から候補を三つ出した。
いま二人は普通に付き合ってる。彼が後になって言ったのは、嫌われる前に離れておこうと思ってた、という話。避けていた理由が、好きだったから。ほんとにそのままの意味だった。
私自身の誤読
昔、私も蟹座の人を嫌い避けだと判定して、静かにフェードアウトしたことがある。目が合わない、返信が遅い、飲み会でも話しかけてこない。三つ揃ったから、もういいやって。
半年後、共通の知人から聞いた。彼、ずっと気にしてたよ、と。
そのとき私が見落としていたのは、雑さの質だった。彼は確かに素っ気なかった。でも私が体調を崩した日には、必ず早く帰れるよう仕事を巻いてくれていた。行動は優しかったのに、態度だけが悪かった。
判定を外したことより、あの不器用な優しさに気づけなかった自分のほうが、今でもちょっと恥ずかしい。
見分けは当てるものじゃなくて、待てるかどうか
七つの分かれ道を並べたけど、全部そろう人なんて実際いない。三つか四つギザギザが見えたら、それで十分。
蟹座男性の避けは、答えが出るのが遅いだけで、出ないわけじゃない。彼が岩陰から出てくるかどうかは、こちらが騒がずにそこにいられるかで、わりと決まってくる。
明日また目が合って、慌てて逸らされたら。心の中で、はいはい今日も好き避けね、くらいに思っておくと精神が保つ。ちょっと余裕ぶってるくらいが、たぶんちょうどいい。
